『戦場でワルツを』(2008)は、戦争の記憶を失った男が事実を取り戻していく物語。
本作は4年という歳月をかけて作り上げられました。
イスラエルのレバノン侵攻を、ミクロな視点で切り抜いたことによる圧倒的なリアリティー。
また、アニメ映画の本作は、心に傷を負い現実から目を逸らした人間をドラマチックに描いています。
2009年、第66回ゴールデングローブ賞では、外国語映画賞を受賞。
賞コンペの受賞・ノミネート実績も多く、世界各国で評価を受けた作品です。
本記事は、本作の原作やラストについて、ネタバレと考察を交えて解説していきます。
目次
『戦場でワルツを』(2008)の作品情報とキャスト
作品情報
原題:WALTZ WITH BASHIR
製作年:2008年
製作国:イスラエル
上映時間:90分
ジャンル:アニメ、ドキュメンタリー
監督とキャスト
監督:アリ・フォルマン
代表作:『コングレス未来学会議』(2015)『セイント・クララ』(1996)
出演者:アリ・フォルマン/吹替:てらそままさき(アリ・フォルマン)
出演者:ミキ・レオン/吹替:木下浩之(ボアズ・レイン=バスキーラ)
出演者:オーリ・シヴァン/吹替:石住昭彦(オーリ・シヴァン)
『戦場でワルツを』(2008)のあらすじ

アリとボアズ:© 2008 Folman Film Gang, Les Films d'Ici, Razor Film Produktion GmbH
2006年、アリはイスラエル兵時代の友人ボアズと再会。
話の最中、ボアズは近頃嫌な夢を見るとアリに告げる。
夢の理由を尋ねると、レバノンで偵察中に犬を撃った記憶が原因だと言うボアズ。
彼の話を聞いている中、アリはふとあることに気付く。
それは、彼が激戦地ベイルートにいたときのことを一切覚えていないということだった。
帰る途中、アリは突然幻覚のようなフラッシュバックに襲われる。
そこには、ベイルートの海で何人かと共に海水浴をしているアリの姿。
夢で見た光景が一体何なのか、一向に思い出せないアリ。
友人に相談し、知っている元兵士に当たってみろと言われたアリは、かつての戦友らに話を聞くことに。
【ネタバレあり】『戦場でワルツを』(2008)の元ネタや原作・表現について解説

イスラエル軍の兵士達:© 2008 Folman Film Gang, Les Films d'Ici, Razor Film Produktion GmbH
元ネタは? 原作はある?
『戦場でワルツを』(2008)は、実際の出来事を原作とした作品です。
その出来事とは、1982年にイスラエル軍によって引き起こされたレバノン侵攻。
監督兼主人公役のアリ・フォルマンは、兵士として実際にこの戦場を経験しました。
彼の戦地での実体験、及びその凄惨さを描いたものが本作です。
アリの実体験の記憶という視点で、レバノン侵攻で起こった出来事を映し出すドキュメンタリー。
本作は、この点をメインテーマとして打ち出しています。
そして、ドキュメンタリー作品らしく、取材インタビューを中心とした内容で構成されているのです。
本作はアニメというより、ドキュメンタリーとして観るべきでしょう。
史実である戦争をアニメーションで描く理由
そうした中で、『戦場でワルツを』(2008)はあえてアニメーションで描く形としています。
戦争というテーマを題材にした作品は、事実をありのまま伝えることが求められるもの。
テレビの報道に偏りが散見される現状、映画媒体にはより一層の社会的役割が求められているのです。
従って、数多くの悲痛なシーンもそのまま映し出されることがあります。
表現の度合いは製作者のさじ加減にもよりますが、映画がテレビではできないことを描くことは多いです。
今回アリが採用したアニメ形式は、一見真逆のアプローチ。
しかし、アニメだからこそできる婉曲表現が、観る者のハードルを下げることに成功しているのです。
この試みは非常に斬新な手法だったと言えます。
アリは戦場での記憶を失い、突然のフラッシュバックも夢か現実かあいまいな状態でした。
記憶が混濁した彼の状態を描く上で、ファンタジーを盛り込めるアニメは最適なものだったのです。
彼の非凡な才能には、驚きを隠せません。
レバノン侵攻の史実をより鮮明に表現するために、アニメ映画とした『戦場でワルツを』(2008)。
本作はアニメでありながら、アリの記憶を実写以上に鮮明に描いた作品なのです。
【ネタバレあり】『戦場でワルツを』(2008)のラストを解説

ベイルートに着いたアリ:© 2008 Folman Film Gang, Les Films d'Ici, Razor Film Produktion GmbH
ここから、『戦場でワルツを』(2008)のラストについて解説していきます。
アリはベイルートで一体何をし、なぜそれを忘れてしまっていたのか。
元兵士達の話を聞きながら、少しづつ思い出していくアリ。
本作のラストシーンは、彼の目に映ったものを複数の視点で見せてくれます。
サブラ・シャティーラの虐殺
結論から言えば、アリは確かに兵士としてベイルートにいました。
彼はこの地で見た光景によって、深い心の傷を負ったのです。
それが、サブラ・シャティーラの虐殺事件。
この事件もまた、実際にあった大きな出来事です。
歴史的背景から、レバノンという国はキリスト教徒の多い国。
そんなレバノンを取り巻く状況は非常に複雑なものです。
シリアから流入してきたパレスチナ難民を端緒とするイスラム教勢力と、隣国イスラエルは敵同士。
両者の泥沼の状況に巻き込まれたり、ときに敵とみなされて攻め込まれる宿命を負っているのです。
1982年のレバノン侵攻は、パレスチナ勢力をこの地から排除する狙いでした。
内戦はまたたく間に展開され、レバノンは戦地となっていきます。
当時のレバノンは、親イスラエル派の若きカリスマ指導者が大統領に就任したばかり。
しかし彼はすぐに暗殺されてしまい、イスラエルとレバノンの太いパイプが断たれてしまうのです。
レバノン国内のキリスト教勢力ファランヘ党は、大統領暗殺はパレスチナ勢力によるものとみなします。
そして、イスラエル軍が見守る中、パレスチナ難民のキャンプを襲撃。
非戦闘員の難民達は、一方的に殺されてしまいました。
この一連の出来事が、サブラ・シャティーラの虐殺と呼ばれるものです。
アリは、銃撃で家族を殺され、大声で泣きながら逃げてくる難民の女性達を見ていました。
周りを見れば、あちこちに高く積み上げられた死体の山。
この世の地獄のような光景に、彼はその場で立ちつくしていました。
アリが見たものは、人間同士の憎しみ合いの果てだったのです。
自己防衛の結果
ここでふと思い返すと、アリが見た夢は虐殺現場ではなく、海で泳ぐ姿でした。
どうしてこのような食い違いが起こったのでしょうか。
アリは不自然なまでに、ベイルートの記憶がすっぽり抜け落ちていました。
その原因は、戦地での出来事で受けた大きなショックによるもの。
心的外傷により、彼はこの記憶そのものを自分から切り離したのです。
なお、彼は作中でも精神科医から話を聞いています。
自分に都合の悪い物事を切り離し、無関係のものとしてなかったことにしようとする姿勢。
これはまさに本能的な、自己防衛機能が働いた結果です。
さて、自らに害をなす記憶を取り除けば、当然そこには記憶の欠如という穴が開きます。
この穴を埋めるために、人間は都合の良い記憶をでっち上げ、補完するのです。
夢の中で海水浴をしていたのも、自分はあの戦争とは無関係だという防衛本能が働いたため。
舞台こそベイルートでしたが、出てくる人物達に兵士らしさは感じられません。
アリは無意識のうちに心的外傷を負っていました。
しかも、今まで全く思い出さなかったことには大変驚かされました。
あらためて、戦争に対する恐怖と怒りがこみ上げてきます。
ラスト・最後の実写シーン
『戦場でワルツを』(2008)は、最後の最後だけアニメで描かれていません。
ここだけ、サブラ・シャティーラの虐殺についての実際の報道映像が流れるのです。
レバノン侵攻に関しては、歴史の授業でも必ず出てくる世界的一大事。
しかし、サブラ・シャティーラの虐殺について知る人は少ないでしょう。
かく言う私も、本記事を書くまでは全く知りませんでした。
この事件が重大な出来事であることは言うまでもありません。
けれども、世界的に見れば砂粒ほどの大きさでしかないこともまた事実。
あくまで1982年レバノン侵攻におけるハイライトの1つにすぎないのです。
それでも、アリには確かにあの悲劇の実感があります。
端から見ればどんなに小さな出来事でも、自分を狂わせたのは他の何でもなくこの事件なのです。
アリは自らに起こった実体験をありのまま伝え、感じ取るきっかけを与えてくれます。
そして、最後にダメ押しかのように差し込まれる実写部分。
アニメ表現でオブラートに包み、終始生々しさを抑え込んだ中で迎えるラストは衝撃的です。
邪推ですが、最後にインパクトを与えるために、それまでをアニメにしたのではないかとさえ思います。
【ネタバレあり】『戦場でワルツを』(2008)の評価は?

幻覚に襲われるアリ:© 2008 Folman Film Gang, Les Films d'Ici, Razor Film Produktion GmbH
監督の実体験を包み隠さずに表現した『戦場でワルツを』(2008)。
本作は上映された国々で高い評価を受け、数々の賞にもノミネートされ、受賞してきました。
ここでは、賞コンペなどの客観的評価及び、私の私見を述べていきます。
高評価の意見が多数
まず、賞コンペの結果をいくつか見ていきます。
2009年の第66回ゴールデングローブ賞で外国語映画賞を受賞。
フランスの第34回セザール賞でも、外国語映画賞を獲得しています。
その他、第81回アカデミー賞や代62回英国アカデミー賞などにもノミネート。
さらに、第36回アニー賞では、4部門にノミネートされました。
"アニメのアカデミー賞"とも言われるアニー賞でも評価されたことが分かります。
本作は、ドキュメンタリーとしてもアニメーションとしても高く評価されているのです。
個人としての評価
ここでは私の感想を踏まえた評価を述べてみます。
戦場での悲惨な体験から目を逸らし、記憶を封じ込めたアリ・フォルマン。
そんな夢うつつの状態をアニメで描いたという点で、彼の技巧には驚かされました。
むごいシーンもアニメで表現することで、いい意味でフィクション感が増し、観やすい仕上がりとなっています。
一方で、『戦場でワルツを』(2008)は基となった出来事の予備知識が前提として作られた作品です。
先に述べた通り、本作はイスラエルのレバノン侵攻の話。
この史実自体を聞いたことがあっても、詳細を知っている人はごく一握りでしょう。
日本では、歴史の授業で軽く触れる程度であり、縁遠い出来事であると言わざるを得ません。
そのため、唐突に物語が始まる本作では、最初に一瞬理解が置いていかれる感覚を覚えるのです。
このような違和感が苦手な人にとっては、特に物語序盤は見づらい内容だと言えます。
ただ、予備知識が前提とは言いましたが、だからといって観れないわけではありません。
私もレバノン侵攻については知りませんでしたが、1回の鑑賞でおおよそを理解することはできました。
なので、身構えずに軽い気持ちで観ても十分楽しめる作品だということを、念のため申し添えしておきます。
『戦場でワルツを』(2008)のまとめ

空爆と休憩する兵士:© 2008 Folman Film Gang, Les Films d'Ici, Razor Film Produktion GmbH
『戦場でワルツを』(2008)でアリが表現したかったのは、戦争の重大さと悲惨さ。
そして、戦争は、いとも簡単に人を狂わせるということ。
戦争に走る者も、残された者も、生き延びた者も皆どこかでおかしくなっています。
記憶を都合良く書き換えてしまうことは、人間の本能。
当事者からしてみれば、虚構も立派な現実です。
同時に、この両者を一手に引き受けている人は、矛盾を抱えてもいます。
リアリティーとファンタジーという矛盾する存在を、アニメーションで解決し、表現しきった本作。
ウルトラCの離れ業を、その目で感じてみてください。
『戦場でワルツを』(2008)の他にもアニメ映画のおすすめ作品を一覧で紹介しています。
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