『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004)や『ホット・ファズ -俺たちスーパーポリスメン!』(2007)などのエドガー・ライト監督作品の常連出演者のサイモン・ペッグとニック・フロストがW主演。
2011年に公開された本作は、製作者のオタク気質が爆発した、SF映画愛に溢れた作品です。
特にスティーブン・スピルバーグ監督への偏愛ぶりには驚嘆します。
それでは、『宇宙人ポール』(2011)のネタバレと感想を紹介していきます。
目次
『宇宙人ポール』(2011)の作品情報とキャスト
『宇宙人ポール』(2011)の作品情報
原題:Paul
製作年:2010
製作国:イギリス、アメリカ
上映時間:104
ジャンル:SFコメディ
『宇宙人ポール』(2011)の監督とキャスト
監督:グレッグ・モットーラ
代表作:『スーパーバッド 童貞ウォーズ』(2007)『アドベンチャーランドへようこそ』(2009)
出演:サイモン・ペッグ/吹替:横島亘(グレアム・ウィリー)
代表作:『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004)『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』(2018)
出演:ニック・フロスト /吹替:茶風林(クライヴ・ゴリングス)
代表作:『ホット・ファズ -俺たちスーパーポリスメン!』(2007)『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』(2013)
『宇宙人ポール』(2011)ののあらすじ

エリア51を訪れるグレアムとクライブ(C)2010 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED
ハリウッドのSF映画が大好きなイギリス人のクライブとグレアムは、ロサンゼルスで開かれるコミコンに参加するのと、多くのSF映画の舞台となったロケ地を巡るためアメリカにやってきた。
キャンピングカーでアメリカ大陸を観光する2人は、その道中、ネバダ州の有名なUFOスポットであるエリア51に立ち寄る。
そこで2人は夢にまでみた、宇宙人とに遭遇する。
その宇宙人の名はポール。
ポールはある組織から逃げておりクライブとグレアムは、ポールの逃避行に付き合うことになってしまう。
宇宙人とSFオタクとの奇怪な珍道中が始まる。
【ネタバレあり】『宇宙人ポール』(2011)の感想・解説【ネタバレあり】

ポールと遭遇するグレアムとクライブ(C)2010 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED
『宇宙人ポール』(2011)の大まかなストーリーはスティーブン・スピルバーグ監督の『未知との遭遇』(1977)と『E.T.』(1982)を基に作られています。
『未知との遭遇』(1977)を参考にしている点は、映画の終盤で登場してくるデビルズマウンテンが旅の終着地点であることです。
宇宙人のポールは、映画 『メン・イン・ブラック』(1997)でウィル・スミスが演じた地球外生命体の管理する諜報機関であるMIB(メン・イン・ブラック)に追われています。
ポールがどこを目指しているのかは、最終盤まで明かされませんでした。
ちなみに『メン・イン・ブラック』(1997)もスピルバーグが製作総指揮を務めています。
『未知との遭遇』(1977)の詳しい考察や解説はこちら、
https://minority-hero.com/cinema-review/Close-Encounters-of-the-Third-Kind/11878/
あふれるスピルバーグ愛とSF映画愛

グレアムとポール(C)2010 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED
ポールがどこを目指しているのか分からないという設定は、『未知との遭遇』(1977)で謎の光を見たロイ・ニアリーが行き先を誰にも言わず、我が道を進んでいく描写から引いています。
本作は『E.T.』(1982)の宇宙人E.T.を仲間のもとに返すという設定も参考にしており、スピルバーグの代表的な2つのSF映画にオマージュが捧げられています。
それではなぜ、本作がここまでオマージュに溢れた映画になっているのか?
それは主演のサイモン・ペッグが脚本の執筆に関わっているからです。
これまでサイモン・ペッグはエドガー・ライト監督とともに、
『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004)
『ホット・ファズ -俺たちスーパーポリスメン!』(2007)
など、ゾンビ映画やポリスムービーに対して、いわゆるオタク向けの映画にオマージュを捧げてきました。
ゾンビ映画やポリスームービーなどのジャンル映画と言われる、コアな映画ファン向けの作品を次々に自身の映画に投影させてきました。
本作『宇宙人ポール』(2011)がオマージュに溢れているのも、オタクな彼の作家性が現れたからです。
夢に見たアメリカと現実のアメリカ

ルースとグレアム(C)2010 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED
『宇宙人ポール』(2011)で描かれるアメリカは、普段ニュースなどでみるアメリカの姿とは全く違います。
日本で報道されるアメリカのニュースは、西海岸のサンフランシスコや、東海岸のニューヨークが中心です。
ニューヨークは言わずとしれた世界経済の中心で多国籍企業が多くあり、ロサンゼルスはLGBTのカルチャーのメッカ。
両方とも、思想的には多様性を重視し、政治的にはリベラルで、支持する政党は民主党が多い地域です。
『宇宙人ポール』(2011)の主な舞台は東海岸でもなく、西海岸でもなく、アメリカの中西部。
アメリカの中西部は、政治的にも思想的にも保守の傾向が強く、キリスト教を心底から信仰している原理主義者が多い地域としても有名です。
『宇宙人ポール』(2011)に登場するクリステン・ウィグ演じるルース・バグスはその中西部のアメリカ人のステレオタイプを描いています。
『宇宙人ポール』(2011)は報道などでもあまり触れられない、アメリカの大多数の国民を2011年当時に触れた作品。
トランプ政権誕生以降は、日本でもときおり目にすることがあるアメリカ中西部ですが、当時はほとんど報道されていません。
『宇宙人ポール』(2011)を観た大多数の人は、自由の国だと思っていたアメリカのイメージが崩れたことでしょう。
イギリス人の主人公の2人も、映画の中で見知ったアメリカのイメージと現実とのギャップにショックを受けます。
【ネタバレあり】『宇宙人ポール』(2011)の考察

宇宙人ポール(C)2010 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED
キリスト原理主義とポール
キリスト原理主義者のルース・バグスはダーウィンの進化論を否定し、人間は4000年前に神に作られたと本気で信じています。
日本人だと、そのような人はほとんどいませんし、そんなバカなと思うのですが、アメリカでは本気で信じている人が多く存在しているのです。
イギリス人のクライブとグレアムとグレアムは自らを「科学の子」と主張するように、彼らはダーウィンの進化論を信じています。
「神の子」であるキリスト教原理主義者の考えと真っ向から対立するスタンスを取っています。
『宇宙人ポール』(2011)は一見するとお気楽なコメディ映画なのですが、根底に流れるテーマはとても政治的。
キリスト教原理主義者の存在が政治的なテーマなのかと疑問に持つ方もいるのではないでしょうか。
特定の宗教を信仰することがなぜ政治的になってしまうのか、それは共和党の支持者のほとんどがキリスト教原理主義者の方々だからです。
共和党は、キリスト教原理主義者が喜ぶような政策を打ち出すことで票を多く獲得。
日本でもそうなのですが、アメリカは宗教と政治が強固に結びついています。
ポールはキリスト教原理主義者であるルースの失明した目を神がかり的な力で治すのですが、これは聖書の主要な執筆者である聖パウロとキリストの話が元になっているのです。
ポールという名前は聖パウロから来ています。
キリストは聖パウロの目を治し、パウロの治癒した目からは鱗が落ちました。
「目から鱗」という慣用句はこのお話から生まれており、新しい知見を得るという意味で使われています。
『宇宙人ポール』(2011)では逆にポールがルースの目を治し、目から鱗こそ落ちませんでしたが、ガチガチに凝り固まったキリスト教原理主義的な思想を落っことしました。
このシーンからは、ポールがガチガチの保守「神の子」とリベラル「科学の子」をつなぐ架け橋であることが分かります。
【ネタバレあり】宇宙人ポールのエンディングについて

ビッグガイ登場!(C)2010 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED
物語の最終盤でポールは自らの命を賭してグレアムの銃弾の傷を引き受けました。
この行動は、全人類の罪を全て被り磔にされ、絶命したキリストを想起させます。
絶命したかに見えたポールは何事もなかったように復活するのですが、これもキリストの復活と同様です。
『宇宙人ポール』(2011)の全編を通して受ける印象は、キリスト教に深く言及した映画だと感じます。
本作の最後ではポールとの旅路をクライブとグレアムは一冊の本にしましたが、これは現代の聖書であるともいえるでしょう。
『宇宙人ポール』(2011)の主題とオマージュ

宇宙から迎えが来る(C)2010 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED
逃避行の途中でルースとクライブとグレアムとポールは焚き火を囲んでマリファナを吸い、語りあいます。
このシーンは『イージー・ライダー』(1969)のシーンからのオマージュ。
『イージー・ライダー』(1969)では宇宙人がなぜ地球にコンタクトを取ってこないのかという話になります。
それから地球人はお互いにいがみ合い、戦争をして、宇宙人に会うには未熟だから接触してこないという結論になりました。
『宇宙人ポール』(2011)では、いがみあうリベラルと保守が、地球人ではなくひょんなことから人類と接触した宇宙人のポールによって和解が成されます。
本作は『イージー・ライダー』(1969)で提示された人類についての見解を、もう少し踏み込んだ形で言及した作品になっているといえるでしょう。
もしかしたら地球から戦争をなくす方法はもう地球上にはなく、宇宙からの介入がないと無理なのかもしれないという皮肉を本作は語っているのです。
【ネタバレあり】『宇宙人ポール』(2011)のまとめ

表彰されるグレアムとクライブ(C)2010 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED
日本でも大人気を博した本作『宇宙人ポール』(2011)は、ドタバタのコメディに見えて実はとてもキリスト教について深く言及した作品になっています。
『宇宙人ポール』(2011)が公開されてから、世界はどうなったでしょうか?
お分かりのとおりですよね、本作で語られたことは何一つ活かされていません。
『宇宙人ポール』(2011)で語られた教訓を、現実の世界でも活かして、人と人とが分かり合える日が来ることを切に願います。
主演のサイモン・ペッグが言うには、『宇宙人ポール』(2011)の続編の構想は頭の中にはあるのだが、実現は現実的ではないそうです。
続編にはあまり期待せず、『宇宙人ポール』(2011)を繰り返し鑑賞しましょう!
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